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なんか書けた。苦労人ロシウと半崩壊中シモン総司令。いや、素か?(笑)基本総司令シモンはヘタレです。






「なぁ ロシウ」
嫌な予感がした。
いや、正確には今日の実務開始時からその嫌な予感というものはある種の明確さと確実さを持って存在・成長しており、今まさにこの瞬間 現実のものとなった というべきだろう。
寸分の狂いもなくサインが落とされた書類の束を抱えようとして止まる。
もうすぐ昼時という時刻にあたって、今日中に処理を済ませなければならない書類の半分以上は決裁が終わってしまっている。
いたって順調だ。いつもこれぐらい集中して手際よく終わらせてくれれば僕の苦労の三分の一くらいは解消されるだろうに。
そう、いつもこの調子ならばとくに警戒する事はない。これが「普通」であれば何の問題もない。
しかし残念かな、通常の彼の仕事進行度はこれ以下・ひどいときにはこの半分以下だ。
元来、政には向いてない性格なのだろう、ちょっと目を離すと大事な書類で紙飛行機を作る。飛ばす。ひどいときには訪れた幹部たちと飛距離大会まで開催している。
ほんの僅かでも席を空けると、どこに隠し持ちこんだかドリルと岩で石造を作り始める。飾る。シリーズ物に挑戦し始める。などと、このテッペリン頂上の仕事場を自らの娯楽広場に変えてしまう。
その何処から湧いてくるとも知れない娯楽に対する情熱をほんのちょっとでもいいから仕事方面に回してほしいと思うのは無駄な願いなのだろうか。
・・・無茶とも言うか。
とにもかくにも、普段の彼の仕事振りはというと人々の頂点に立つ者とは思えないほどのものなのである。
つまり今日のような素晴らしいとしか言いようがない働きぶりはごく稀に見る、そう三ヶ月に一度くらい起こる奇跡で、けれどだからこそ嫌な予感というものは生まれる。
彼は気紛れだ。それもひどく。そしてその気紛れを実現させるだけの権力を手にしてしまっている。
なんの因果か哀しいことに、彼の気紛れと奇跡はほぼ同時期に訪れるのだ。これはここ数年の付き合いで分かったこと。正直な話 分かりたくもなかった事実。
「俺、考えたんだけどさ」
今までよどみなくペンを動かしていた手を止め、彼は考え込むような声を出して立ち上がった。
どうやら嫌な予感の的中による動揺で動きが停止した僕には気付いていないようだ。
なんですか、と溜息混じりに問いながら 処理済の書類の整理を止めて新しく追加された束に手をかけた。
下水道工事の苦情か。つい一週間前にも同じようなものが届いていたが・・・。どうやら総司令に届く前の段階できちんと選別が行われていないようだ。
なんと非効率的な。効率的なマニュアルを指導しなおす必要性がありそうだ。
「ここから見える位置にもうひとつアニキの石造を作ろうと思うんだ」
こっちは新ビル建設の提案書か。最近はこの手の書類が多いな。しかもこの間見たものと重複してないか?
「今度はもっとこう、凝ったポーズでさ。天に向かって指差してるのもいいけど、っていうかぶっちゃけこっちを向いてるのが欲しいなって思って。どんなポーズがいいかなぁ。ロシウはどう思う?」
「というか、駄目です。作ろうとしないでください」
このまま書類に意識をもっていって無視する方向で構えていたが、どうやら彼はそんな空気には気付かなかったらしい。
いや、気付かなかったのではなく無視した。そんなもの自分の知ったことではないとばかりに、世に蔓延する悪しきジャイアニズム・自己中心的思考だ。
ガラスに手を突き、うっそりと外界を見つめる彼。胡乱げなその眼差しの先に何があるのかって、そりゃ彼の羨望の先にいる人物だけだろう。
この都市の名前ともなった英雄。都市のシンボルたるその英雄の銅像はこの場所からは見えない。確かに見えない。
見えないが、わざわざ見える位置にもう一体作る必要性がどこにあるというのだろうか。
「なんでだよ。いいだろ、一体あるんだからもうひとつぐらい。嗚呼いっそこのテッペリンをアニキの像で囲むってのはどうだろう!東西南北四方八方にアニキの像を建てるんだ!素敵じゃないか!」
「もうすでにひとつあるんだからいいじゃないですか、充分じゃないですか。それに全部こっちを向いてるのは少し怖くないですか。あ、いや別に建てる前提の話ではないですからね」
「なんで?それってどこが怖いんだ?やる気が出ていいじゃないか。あっちを向いてもアニキ、こっちを向いてもアニキなんて理想郷そのものだろ!さて着工はいつにしよう、早めのほうがいいな・・・」
「ちょっと待っ・・・」
悠然とした風体で先ほどの新ビル建設の書類の裏に草案を書き始める彼。
・・・なんてことを。
「・・・シモン総司令、その書類は今日中に処理していただかなくてはならない重要なものなんですが」
「アニキより重要なものなんてこの世に存在するわけないだろ?相変わらずそういうところは馬鹿だなぁロシウは!」
ぶん殴りたい。いや、失礼。
天真爛漫、満面の笑みを浮かべ意気揚々と文字を連ねていく彼に少々こうイライラとしたムカムカとした・・・早い話殺気が湧いた。
拳が小刻みに震えてしまった。いけない。冷静になれ。僕は本来、気が長いほうなのだから。
ふうううと長い溜息をこれ見よがしに吐いて、彼に向き直る。・・・すでに書類の裏は『テッペリン周辺をアニキの像で埋めつくす案』のメモ書きで真っ黒だ。
いつの間に包囲から埋め尽くすに発展したんだろうか。頭が痛い。
「とにかく駄目です。作ろうとしないでください、本気で書類として提出しようとしないでください」
「よし、採用っと」
「って、まだ草案状態でしょう!?」
しまった、突っ込むべきところはそこじゃなかった。
「大丈夫だって、あとからきちんとした書類出すから。あ、最優先事項にしとこ」
「・・・シモンさん!」
いい加減にしてください!と怒鳴った僕が、あまりの疲労っぷりに半崩壊した彼をベッドに押し込むまであと数十分。

そう、彼の脅威の仕事効率化の奇跡の周期は 気紛れとともに疲労のピーク時に襲ってくる。
そして半日寝込んだ彼がその日あったことをほとんど覚えていないうちに、真っ黒になった書類をなんとか握りつぶしておかねば。
自分で言うのもなんだか僕の苦労は耐えない。本当に。疲労で半崩壊したいのは僕の方なのに。


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